欧州サッカー選手権とコロナ対策
- 舞緒ルイ
- 2021年6月26日
- 読了時間: 11分
更新日:2021年7月2日
コロナの影響で一年間延期となっていた欧州サッカー選手権=EURO(ユーロ)2020が、6月11日に開幕しました。
東京オリンピックと同じ理由で、一年遅れの開催でも名称はそのまま<EURO2020>で統一されています。
ワールドカップと2年ずらして、同じく4年ごとに開催される大会で、欧州予選を勝ち上がった強豪国同士で繰り広げられるレベルの高い試合は、サッカーファンにとってはワールドカップ並みに盛り上がる楽しみなイベントです!
延期されたとはいっても、ヨーロッパもまだコロナ禍~東京オリンピック開催を目前に控えた今、同じスポーツの大きなイベントとして注目されているこのEURO2020について、サッカーファンの一人である筆者の目線で、概要をお伝えしたいと思います。
<EURO2020開催地>
今回で16回目となるEURO2020は、1960年にフランスで第一回大会が開催されてから、ちょうど60年の節目にあたることから、記念の特別大会として欧州大陸全土の複数都市で大会を開催する事を、2012年12月の欧州サッカー連盟(UEFA)理事会で決めました。
1996年の大会から、出場国がそれまでの8カ国から16カ国に倍増し、2016年大会からは24カ国に増加したのですが、これは国際大会に出場する機会を欧州の中堅国にも与えよう...という意図があったようです。
このように、大会の巨大化が進むにつれて、ヨーロッパの中堅国では1ヵ国のみでの大会開催が難しい状況になったことから、2000年(ベルギー&オランダ)、2008年(オーストリア&スイス)、2012年(ポーランド&ウクライナ)大会のように、隣接する2ヵ国による共同開催がスタンダード化しつつありました。
(※2002年のワールドカップがアジアで初めて行われた大会で、日本と韓国の2カ国共同開催というのもW杯史上初でした。)
そして、2013年1月のUEFA理事会で、2020年大会を欧州13カ国での分散開催と決定しました。このうち12会場でグループリーグ3試合と決勝トーナメントの1回戦もしくは準々決勝の1試合、残る1会場で準決勝と決勝の計3試合を開催することとしました。
従来の開催国枠は撤廃されましたが、予選を通過した開催国はグループリーグ中の自国の試合を少なくとも2試合は開催でき、またグループリーグの組み合わせには、選手や観客の負担を抑えるために移動距離も考慮されるように決めることに。。。
スタジアムの収容人員数は、決勝・準決勝が7万人以上、準々決勝が6万人以上で、決勝トーナメント1回戦とグループリーグが5万人以上(2ヶ所は3万人以上でも認められる)という条件で、選出される開催地は1カ国につき1都市のみという枠組みとなりました。
これに基づいて開催地立候補の受付けを行ったところ、2013年9月の期日までに32協会から立候補の意向が示され、最終的には19の立候補都市が残り、その中から13箇所が一年後の2014年9月に開催都市として発表されました。
実際に発表の時点では13都市で予定されていましたが、ブリュッセル(ベルギー)はスタジアム建設の遅れにより2017年12月に開催地から外され、そこで開催予定だった試合は、ロンドン(イングランド)で行われることになりました。また、新型コロナウイルスの感染状況に伴い、2021年4月にダブリン(アイルランド)はその開催地から除外され、最終的に11ヶ国での分散開催となりました。同じくコロナの影響で、スペインでは北部の都市ビルバオから南部のセビリアに開催地が変更されました。
以下が、今大会の開催地とスタジアムの概要一覧です。

投票の結果、決勝と準決勝はロンドン(イングランド)での開催が決定。また、ミュンヘン(ドイツ)とバクー(アゼルバイジャン)、サンクトペテルブルク(ロシア)、ローマ(イタリア)の4都市では、準々決勝1試合とグループステージ3試合を行うことになりました。
ちなみに、サッカーの世界においては、イングランドとスコットランドは別の国として認知されています。
※通称「イギリス」もしくは「英国」と呼ばれる国の正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)で、もともと4つの国で成り立っている連合国です。
国際サッカー連盟(FIFA)の創立は1904年ですが、世界最古のサッカー協会であるイギリスのサッカー協会の創立は、それより約40年も早い1863年。4つの国の協会はそれぞれ個別に活動しており、FIFAへの加盟も4協会個別での加盟を主張したそうです。
当時のFIFAは、1国1協会(代表)での加盟が原則でしたが、サッカー発祥の地であり圧倒的な強さを見せていたイギリスには、ぜひとも加盟してもらいたかったので、4協会(代表)それぞれの加盟を認めたという背景があるようです。
<ローマでの開会式>
かくして、正式に開催地や試合のスケジュールなどが決まる中で、開幕試合はローマのスタジオ・オリンピコで組まれることとなり、オープニングセレモニーはローマのコロッセオ(ローマ時代の円形闘技場)という歴史的建造物でコンサートが予定されていました。
そして、欧州予選を勝ち上がった24ヶ国は、2019年11月の組み合わせ抽選会で6つのグループに振り分けられました。
ところが、年が明けて新型コロナウィルスが瞬く間に欧州中に蔓延したため、欧州サッカー連盟(UEFA)は、2020年3月17日に、夏に開催予定だったEURO2020を一年間延期することを正式に発表したのです。
ちなみに、東京オリンピックの延期が決定されたのは、この一週間後の3月24日でした。
こうして、一年延期された大会ですが、予定通り一年後の6月11日に、ローマで開会式が行われました。残念ながら、コロッセオでのオープニングセレモニー&コンサートという当初の構想は中止となりましたが、スタジオ・オリンピコでの開幕式には、世界的に有名なイタリア人オペラ歌手のアンドレア・ボチェッリが歌を披露しました!
※画像はネットニュースより
彼が開会式で歌ったアリア『誰も寝てはならぬ』は、プッチーニ作曲のオペラ『トゥーランドット』からのものであり、オペラでも最も有名なアリアの1つです。その歌詞の最後のフレーズである「Vincerò~♫」(ヴィンチェロ=私が勝ちますの意)が、スポーツイベントにふさわしいとして、よく歌われるのです。
※余談ですが、2006年のトリノ・オリンピックで、フィギュアスケート女子シングルで金メダルを取った荒川静香さんのフリープログラム曲としても使われています。
開幕戦は、ホームのイタリアがトルコに3-0と圧勝し、その後もイタリアは、スイスにも3-0で勝利、ウェールズに1-0で勝って、三試合無失点でグループリーグ1位通過を決めました!
参考までに、5年前の前大会EURO2016の時にも、イタリアのチームにスポットをあてて、このブログで紹介しています。よろしければ、コチラ☜からご覧ください。
<決勝トーナメント>
各グループの上位2チーム(6x2=12)に加えて、3位チームのうち上位4チームの合計16チームが、決勝トーナメントに進出します。
グループリーグの結果、勝ち上がった16チームのトーナメント表と試合日程は、以下の通りです。
※表示の日時は分かりやすく日本時間(欧州との時差は開催地によって日本より-6~8時間)のものを掲載しました。

残念ながら、日本ではいずれも深夜の時間帯ですよね💦
でも、WOWOWプレミアムとWOWOWライブで全試合が放映されていますので、サッカーファンの方は、録画または時差調整をして、ぜひご覧ください!
ということで、わがイタリアは今夜オーストリアとベスト8をかけての対決です。最近のイタリア代表チームは、スピード感があって、観ていてもおもしろいです。予選から代表チームの無敗(代表戦はここ30試合連続無敗)が続いていて、好調なアッズーリ(サッカーのイタリア代表のニックネーム)に、イタリア人の期待も高まっています!!
<EURO2020のコロナ対策>
◎開催都市の分散方式
選手たちは、グループリーグの間は、ホーム開催試合を除いては中3日から4日あけて欧州の各都市に移動していましたし、決勝トーナメントが始まってからも、この移動が伴います。
一国開催ではなく、複数都市の開催になったことが、結果的にはコロナ対策のメリットとなったのかも知れません。私も、初めはコロナ禍でこのような方式が取られたのだと思っていたくらいです。
一方で、東京オリンピックは、一部の競技が札幌と福島と宮城で行なわれますが、大半は
東京および関東にほぼ一極集中ですし、毎日のように過密日程で競技が行われます。
◎スタジアムの観客数制限
グループリーグから準々決勝までは、各都市ごとに入場者の上限が異なっています。
*ブダペスト(ハンガリー):100%(約6万人)
*バクー(アゼルバイジャン):50%(約3万人)
*サンクト・ペテルブルク(ロシア):50%(約3万人)
それ以外の都市はだいたい4分の1程度で、実際のグループリーグの観客数を見てみると、
*コペンハーゲン(デンマーク):約2万5千人
*ロンドン(イングランド):約2万人
*アムステルダム(オランダ):約1万5千人
*ローマ(イタリア)/ミュンヘン(ドイツ):約1万2千人
*セビリア(スペイン)/グラスゴー(スコットランド)/ブカレスト(ルーマニア):約1万人
実際には、対戦カードで観客の入りも前後したようですが、テレビを見ている限りでは、スタジアムの観客が一人ずつ距離をあけてとっているとは言い難いですし、マスクの着用についてもまちまちでした。
◎各国(各都市)ごとの入場規制
観戦者がスタジアムに入るには、次の3つのうち最低1つの証明書の提示が必要。
*ワクチンの完全接種の証明書
*過去に感染して完治した証明書
*72時間以内のPCR検査による陰性証明書
アムステルダムでは、ワクチンの完全接種の証明書だけでは不十分で、さらに陰性証明書が必要。また、ブダペストでは、入場時に体温検査をし、37.8度以上の者は入場が拒否されるとのこと。(注:白人の平熱は、一般の日本人よりも高いらしいです)
さらに、ミュンヘンでは、観客はKN-95(欧州規格でFFP2)の防塵マスクを着用しなければならない・・・といった感じです。
また、そもそも移動・旅行ができるのかという問題は、開催国の政策ごとに異なります。入国後に何日かの検疫&隔離が必要な国々では、国外から行くこと自体が難しいでしょう。
◎試合開催の特別規則
通常は1チーム23人の選手が登録されるところ、今回は26人まで許されました。
また、大会開催中に感染が拡大した場合のことも考慮され、いくつかのレギュレーションが追加されています。
例えば、ゴールキーパーを含む健康な13名以上の選手がいれば、プレーすることができます。もしそれができない場合、試合は最大で48時間延期されます。そして、延期しても試合が開催できない場合、当該チームは3対0のスコアで負けとなります。
このような規則は、欧州選手権史上でも初めての特別規則です。
※これは、東京オリンピックの場合、集団競技には参考になるかもしれませんが。。。
◎バブル方式の採用
「バブル方式」とは、国際大会で導入が進む新型コロナ対策の一つで、開催地を大きな泡(バブル)で包むように囲い、選手や関係者の外部との接触を遮断する方法で、これまでも多くのスポーツ大会で採用されています。
今大会でも、欧州サッカー連盟の指示に従い、24チームは2週間前に準備を開始してから大会終了まで、健康管理の中に閉ざされています。選手やスタッフは、定期的にPCR検査を受けなければならず、外部と遮断した空間をつくる「バブル方式」で感染を防ぐため、外部との接触はほとんどないといいます。
周りの一般人やサポーターはお祭り騒ぎをしていても、選手は前例のないストレスと孤独、そして厳しい管理の中に置かれている訳です。
バブル方式の成功例は、今年2月に行なわれたテニスの全豪オープンです。選手はチャーター機で入国し、2週間のホテル隔離生活の間、毎日PCR検査を実施して、大会を無事に終えました。
また、3月のフェンシング(ハンガリー)、4月のレスリング(カザフスタン)、5月の柔道(ロシア)などの国際大会でもバブル方式が採用されたようです。
それでも、感染者がまったく出なかった訳ではなく、レスリング関係者は「日本人はまじめだが、マスクをしないでわめき散らす国が結構あった。ルールを守るかどうかの差が激し過ぎる」と振り返ったそうです。
※東京オリンピックでも、このバブル方式が採用されるようですが、報道でも言われているように、オリンピックとパラリンピックの場合は、上記の国際大会をはるかにしのぐ規模となります。
また、東京オリンピック組織委員会によると、このバブルに出入りする関係者のうち、国内の約30万人(ボアンティア、通訳者、警備員、運転手、清掃員など)は、公共交通機関で自宅などから通うため、完全なバブルを遵守しているとは言えません。しかも、この30万人に対して、政府が用意しているワクチンの数は2万人分しかないそうです。
<懸念されるイギリスの状況>
6月22日にイギリス政府は、ロンドンで行なわれるEURO2020の準決勝(7/6&7)と決勝(7/11)に、6万人以上の観客を入場させると発表しました。 試合が行われるウェンブリー・スタジアムの収容人数は9万人で、観客数はその75%(=6万7,500人)を上限にするということです。
イギリスでは、新型コロナウィルス流行後の最大のイベントとなりますが、インド型変異ウィルスと呼ばれるデルタ株が蔓延し、最近の1日の新規感染者数は1万人を超えていて、6月21日に全面解除する予定だった規制が、7月19日に延期されたばかりでした。
そこで、イタリアのドラギ首相は、デルタ株が猛威を振るうイギリスでの開催に懸念を示して、決勝の開催地をローマのスタディオ・オリンピコに変更する案について働きかける構えであることを示しました。
いずれにしても、この欧州サッカー選手権が原因で、感染の再爆発という事態だけは、なんとしても起こらないことを祈るしかありません。
<イタリアの感染状況の推移>
それでは、イタリアのその後の感染状況の推移です。(この記事は執筆時6月26日現在の情報を基に書いています)
いつものように、過去3週間の推移を1日の増加数の週ごとの平均値で見てみましょう。
※1週間のトータル数ではなく、一日あたりの平均数となります。
* 6/ 4- 6/10 感染者数: 2,101 死者数: 73 回復者数: 7,206
* 6/11- 6/17 感染者数: 1,412 死者数: 48 回復者数:11,465
* 6/18- 6/24 感染者数: 917 死者数: 25 回復者数: 6,010
引き続き順調に減少傾向にあり、この2週間で感染者数も死者数も平均値がさらに半分以下になっています。6/21には、新規感染者数が484人と500人を下回り、これは昨年の8月18日以来10ヵ月ぶりです!
そして、イタリアでは来週6月28日から”屋外でのマスク着用義務”が撤廃されます。いよいよ本格的に暑くなってきましたし、これで海や山でのヴァカンスでは、口を覆う必要がなくなる訳です。
とはいっても、誰もが「今後の状況次第では、昨年のように、また秋から厳しい制限措置が始まるかもしれない…」という恐れはもっているに違いありません。例えそうなったとしても、一時でもいいから、この夏は解放されて満喫したいと多くの人が思っていることでしょう。
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